エッセイ・・・オモイツクママ




  ◆  お休みなさい【e7】


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 おやすみなさ〜い・・・・・
 「そっと そっと おやすみなさ〜い」
先日ラジオを聴いていると懐かしいメロディーが流れてきた。  

 寒い小雪のちらつく冬の夜、まだ若かったmさんと私は繁華街を飲み歩いて、ミナミの周防町通りの、とあるビルの中にある一軒のクラブに入った。会員制と書かれたドアーを開けると落ち着いた雰囲気のある室内は人々の談笑が淡くかき消すかのように静かに音楽が流れていた。 
 「あらっ、mさん」ホステスの一人が歓声を上げた。  
 彼はこの店の常連である。直ぐに奥にあるボックス席に案内された。女の子二人が飲み物をセットし、席が落ち着いた頃に和服の良く似合うママが挨拶に来た。 
 「初めまして」ママが私に名刺を差し出した。スタイルの良い、なかなかの美人である。しばし雑談して他のお客に挨拶に行く。 入れ替わるようにチィーママが私の横に座った。小柄であるが可愛い感じの、まだ若いがしっかりしていて話題の豊富な娘である。piano.png 
 店のラストの時間が近づいてそろそろと思う頃に彼女はそっと席を立った。店内には白いグランドピアノが置かれている。その前に彼女は座った。そしてピアノを弾きながら静かに歌った  
   「・・・・・そっと そっと おやすみなさ〜い」この店の閉店のときに弾かれる曲である。  

 後日、友人と待ち合わせをしていたが時間が早かったので、件のクラブに一人で行った。ドアーを開けると暖かい空気に包まれ、ふと異次元の世界に迷い込んだような錯覚を覚えた。私は近くのカウンターの席に座った。それを目ざとく私に気づいたチィーママがこちらに近づいて来た。  
「いらっしゃい よう来てくれはったわね」と明るく話しかけながら隣に座った。「ボトルを・・・」 と私。「いいのよ今日は、私のボトルお願い」と彼女は店の子に持たせた。カウンター席、他の娘も来ないし、と笑いながら言った
「お一人の時はね・・・・・・」。  
彼女との話は他愛の無いものであった。「私、あの公園の近く」 「エッ 僕も近いよな」「じゃあ 帰りに送ってくれる」・・・・・  

 まだ時間が早いのでお客さんは少ない。ママが出勤してきた「あらっ いらっしゃい。奥の席にどうぞ」ごさい無く言った。  
 彼女は私の袖をちょっと引いてニコッと笑った。つぶらな瞳の笑顔がとても可愛かった。
今日は友人と待ち合わせがあるのでと早々に席を立った。
 ・・・・・それからは時々一人で、あるいは友達と飲みにこの店に通った。  
 あれから、既に何十年と経つのでしょうか。

別れの夜の涙のしずく 星も流れて散ってゆく・・・・・今は居ない貴方に
そっとそっと おやすみなさい そっとそっと おやすみなさい
           クニ河内 作詞/作曲 唄:布施明(昭和45年)

 久しぶりに聞いたメロディー、この歌は若かった頃のほろ苦い想いを甦らせた。 あの白いピアノの音色、もの静かな憂いを含んだ彼女の歌声に・・・・・


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