短篇小説・・・ オモイツクママ


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「寒〜い」お話【n11】

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  「寒〜い」お話・・・終電車

 皆さん酒に酔って「最終電車」で乗り過ごした事はありませんか。今日は少し「寒〜い」お話を!  

 少し飲み過ぎたかな。久しぶりに友人と再会、行きつけのクラブで思わず深酒をしてしまった。
 ホステスの夕子が少し心配しながら足元の及ばない僕達を店の外まで見送ってくれた。
 「だいじょうぶ! タクシーを呼びましょうか」
 ビルの外はネオンが輝き、通りにはほろ酔い加減の歩く人が絶えない。
 「少し歩いてから帰るよ」 
 「気をつけてね」心配そうな声を背中に聞きながら人混みの中を僕達はふらふらと歩いていた。

 「今日は楽しかった、有り難う」終電車がまだあるので、これで帰るよ友人は言った。  
 じゃ僕も一緒に帰ろう。彼は途中の駅で乗り換え、別れてから静かな車内に一人になると眠気がさしてきた。うつらうつらと気持ちが良い。気がつくと電車は何時の間にか郊外を走っている。暗闇の中をぽつんぽつんと窓の外に灯りが見える。  
 次の停車駅のアナウンスが流れる。しまった乗り過ごした。慌てて次の駅で飛び降りた。    

 周りは闇の中、山と畑に囲まれた小さな駅だった。駅員に尋ねると上りの最終電車はもうないという。近くを県道が走っているようだ。車のライトの明りがちらほらと見える。  
 乗客を送っていった帰りのタクシーでも拾うかと考えながら歩いていると1台のバスが走って来るではないか。手を上げて強引に止める。自動ドアが開いた。ヤレヤレ、行く先も確かめずに乗車した。  
 車内には乗客が4人、薄くらい車内には冷たい空気が漂う。一人は帽子を深くかぶった老人、やせ細った親子と思われる子供ずれ、そしてまだ10代と思われる頭に包帯を巻いた若者である。
 静かな車内はエンジンの音だけが単調に響く。なにか異様な雰囲気が漂っている。  
 光の具合か青白い顔をした、やせ細った老人と思しき人に声をかけた。
 「このバス、どこ行きですか?」  
 老人は静かにこちらを見て
 「どこ行き! あんた知らんのか?」不思議そうにこちらを見た。  
 その顔は悲しそうな、そして哀れみを帯びた顔であった。
 「このバスは霊界行きだよ、わしは先ほど病院からね。あっちの二人は途中の・・・沼の畔から乗ったんだよ。あの若者は先程の交差点からね」
  じゃ僕も、もしかして・・・・・ 今までの酔いが一度に覚めていくのが感じられた。
 「俺はまだ死んでいない、なにかの間違いだ」  
 僕の大きな声にみんなの悲しそうな青白い顔をした視線が僕の方にいっせいに向けられた。
 「運転手さん、止めて下さい」バスの運転席に近寄ると
 「危ないですよ、座っていて下さい」制帽を深くかぶった運転手が静かに言った。  
 やがてバスはぽつんと赤い明りが灯る小さな建物の前を行き過ぎて止まった。
 「いくらですか?」僕はあわてて言った。
 「寸志で結構です」1000円札を渡すと急いでバスから逃げるように降りた。  
 バスはそのまま静かに、漆黒の闇の中に消え去って行った。
 後部の方向幕には赤いランプがぼんやりと付いていて、行き先表示は読み取れなかった。  

 建物は派出所であった、中に入ると書類を見ていた警察官が顔を上げ、こちらを見てたずねた。
 「何か、ご用件は」  
 陽に焼けた顔色の良い警察官の姿を見てホッとした。
 「今のバスはどこ行きですか?」
 「こんなに遅くバスは走っていませんよ」不審そうに答えた。
 「酒に酔って道を迷ったんです、タクシーを手配してくれませんか」  
 酔いも覚めた僕は丁寧にお願いした。
 「申し訳ありませんが携帯を持っていなくて・・・・・」  

 その数日後、思い立ってこの場所を訪ねた。
 件(くだん)の交番も在った。そして近くには古くからのお寺もあるという。訪ねて見ることにした。そこは少し山の中に入った小さなお寺で由緒のあるお寺だそうだ。  
 境内に入ると社務所があり、中から袈裟をまとったお坊さんが出てきた。顔を見ると、あの時のバスの運転手にそっくりである。これから故人の追善法要があるという。  
 そっと奥の薄暗い祭壇を見ると、かの4人の乗客の姿がぼんやりと浮かんで見えた そっと僕は手を合わせ、何かの縁かと少しばかりのお供えをしてそのお寺を後にした。  

 ・・・・・あなたも夜中の最終バスには気をつけて乗りましょう。こんな怖い思いをしない為にも。


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