◆短編小説・・・
阪急電車【n3】

    
  ●阪急電車・・・・思い出の少女

 
 昭和30年頃の旧阪急梅田駅は現在の阪急百貨店に並んで大きな大きなドームのコンコースの奥にプラットホームがあったが昭和48年に梅田駅ホームがJR高架の北側に移設完了された。 そして残されたコンコースも阪急百貨店の建替え工事によって現在は改築されている。

 始めて乗ったマルーン色の阪急電車・宝塚線は今から50数年前である。久し振りに行く当ても無くこの電車の乗客の一人になった。 途中で何かに誘われるままに思い出の「三国駅」で下車をした。
 ホームは3階にある立派な駅舎に変わっていて、急カーブを解消するために少し場所がはずれている。

 MIKUNI.JPG昔は古い地上駅で電車がホームを離れると大きくカーブして神崎川の鉄橋に向かって走って行った。この駅には、ほろ苦い思い出がある。中学生のころ、密かに付き合っていた少女が私と遠くに離れて転居して行った所である。そして始めて乗ったマルーン色の阪急電車、このホームに降り立ったのは何時だったのだろうか。三国駅横の神崎川沿いを歩いた思い出の場所でもある。それ以来この駅に再び降り立つ事はなかった。

 乗って来た電車が発車して神崎川鉄橋に向かって出発して行くと、ひとりホームに残された。ふと反対ホームに眼をやると、ひとりの少女がこちらを向いて立っている。眼が合った、「アッ」声を飲み込んだ。手を振るが反応が無い。私はあわてて反対側のホームに走った。 ホームに上がるともう其処には誰もいなかった、少女も・・・・。

 古いベンチには一冊のデッサン帳が置かれていた。何気なく手にとってパラパラとめくると不思議な感覚に襲われた。そこに画かれたデッサンには見覚えがあった、遥か遠い遠い昔に。一面に広がる緑、紅紫色のレンゲソウ草の花が咲くその向こうには一両の電車が走っている。長い髪の毛を三つ編みにしてこちらを見ている少女の姿。クラシックバレーのトウシューズのデッサン・・・・私は突然めまいを覚えた。

 大きくカーブした遠く線路の向こう側から誰もいないホームに電車がゆっくりと向かって来るのが見えた。私は古ぼけた木のベンチにデッサン帳をそっと置くと一人でその電車に乗り込んだ。思い出のある古いプラットホームをゆっくりと電車が走り出す。窓の向こうにはこちらをじっと見つめる少女の瞳、時間がゆっくりと流れていった。

 わたし、ず〜と待っていたのよ。ホームのベンチでスケッチしながら。ふと見るとあなたが向かい側のホームに立って手を振っていたでしょう。
慌ててベンチにスケッチブックを置いて立ち上がるとあなたはすでに、そこにいなかった。
 いつまでもいつまでも待ったわ。刻(とき)が緩やかに過ぎるのを・・・・。

 「三国駅」は2005年にシンガーソングライターのaikoがリリースしたヒット曲のひとつでる。これは昔のゆっくりとした時間の流れの中にある地上に駅があった時代とその周辺を歌った曲である。 オリコンチャート2位になったことがあり、スローな曲で昔の緩やかな時間の流れが懐かしい。
    もしもあなたがいなくなったら
     あたしはどうなってしまうだろう?
      持ち上がらない位に首をもたげて泣くのかなぁ・・・・

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